水平線/百瀬朝子
泣いたって笑ったって
きっとわかりゃしないんだ
隣にいるきみも
あの遠くの船乗りと同じようにしか
あたしのことが見えていない
万が一、あたしの涙だけ
透明な風のように涙腺を
吹き抜けているのでなければ
ね?
近いのに遠かったり
遠いのに近かったり
あるがままにならなかったり
下腹部あたりが張ってきた
あたしは孕んでいる
吐き出せないのは
得体の知れないせいにして
答えのない問いは欺いて
近づけない水平線を追うように
明日への侵入を試みる
海は冷たく深いだろうか
水平線が濃くなる
(ちがう)
あたしが褪せてゆくんだ
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