passage/木屋 亞万
 
し文章のワンフレーズだけを諳んじていて
そのフレーズと結末の間にあるストーリーについての記憶を紛失していたとして
あらゆる受動物たちはその状態を嬉々として迎え入れ
各々が失われた接合部を想像し始める、
自分が考えうる限り自然な形のものを描き出していくのだ

夜空を見上げても星がほとんど見えないときでも
化粧の濃い女性の目蓋のラメに、星空が負けていたとしても
僕らは街の大声に消されてしまった小さな声に耳を傾けるのだ
聞こえるさ、聞き取れるとも、
そのために受動物たちは耳をすませているのだから

人間はいつまでたっても年末にいて
どうやら年は越せそうにないらしい
失われた11ヶ月のときについて考えるのが僕らの習慣で
その道をなかなか避けては通れない

もしあなたがその習慣に消極的で
どうしてもこの道を通り抜けたいのなら
あなたの愛する文章の一節を感情込めて読み上げればいい
それが彼らのヒントになるかもしれないし、
誰かがあなたの失われた記憶を探そうとするかもしれない
もしあなたが記憶の一切を失っていないとしても、ね

戻る   Point(4)