背中には向日葵/木屋 亞万
 
ただ声を聞きたいだけで
低い唸りが響く胸のトンネルに耳を押し当てたくて
私も彼も裸になったのだと思う
何かしゃべって、と言うと
何をしゃべればいい、なんて聞くから
何だっていいよ、と答えるしかなかった

耳のすぐ近くで異性の声がするというだけで
何だかとても安心できる夜がある
肌が触れ合う温もりよりも
脈が押し上げる微弱な圧迫感よりも
口という穴以外から響いてくる声が
私の名を呼べば、それだけで
ずぼりと肋骨の隙間に埋もれてしまう

この声はどこから来ているの?
追いかける
青いドレスを着た金髪の少女が
懐中時計を持ったウサギを追いかけたように
声が流れてくる
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