一瞬を越えて行け/小林 柳
 

時に陽光の眩しさに
時に雑踏の中ひとり
愕然として立ち止まる
背中を押され
肩を弾かれ
何処にいるのか わからなくなる
どこかへ散ってゆく人の
波の中 俺は何処へ行くのだろう

今 視界に在る確かな全て
淡く やけに輝いている
交わす挨拶もいつもの会話も
それらの温度は
沈む太陽の熱と冷める

多くを遥か後ろに望み
常に移ろう一瞬の
その端を歩き続けている
目的も解らず
やみくもな素描のようで
言える事など殆ど無く
ただ少し笑ってみても
後悔だけが付いてまわる

過ぎ去った一瞬を
離さず握りしめている
青みがかった残像が揺れ
手の熱で色褪せ
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