オーロラ/ゆえづ
 

夜更かしの羊飼いは大層身軽で
わたしの寝室へ夢のように舞い降りては
夜毎数字をひっくり返す

空がまるで海なのよ


わたしはちぎれながら泳ぐ
よれた真夜中を
雨に打たれるカラスのように
剥がれ飛んだ色とりどりの鱗片が
黒ラシャの敷布に堆積する
深い穴底にきらめいた泡沫のいのちを
あなたはその確かな両腕に
ひとひらひとひらくるんでくれた
そしてわたしのなかへ
じわと呼び起こすたゆたいのうた


ひしゃげた深海魚さん

あなたはからだいっぱいにわたしを抱いて
忘れた呼吸を数えようと言った
お空に雲が迎えにくるまでね

お空に雲が迎えにくるまでね


ちぢれた髪の柔らかな湿り気が
よどんだ声をさらってゆく
わたしが待っていた夜明けはすでに
まっさらな陽の下で死んでいる




水面をごらん
羊たちが走っているよ


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