フレンチトースト/百瀬朝子
ジュジュジュワーパチパチパチ
バターの香りが換気扇に吸い込まれる
その途中、あたしの鼻腔を刺激して
あたしの口の中をいやらしくしていく
すっかり高くなった秋の空に馳せる
ふと気がつくと フライパンではちょうど
食パンが美味しそうな焼き色をつけていて
それはまるで ここにはいないはずのあなたが
知らせてくれたみたいな何気なさ
そんな瞬間が うれしい
片面がフレンチトーストになった食パンを
ひっくり返す
あたしの心はひっくり返ったりしない
だってあたしは裏切らない
香ばしくなったバターのにおい
カフェオレはインスタントでいいや
[次のページ]
戻る 編 削 Point(6)