祭り、花火、姉と紅い夢/結城 森士
 
祖母の手の、乾いたシワの硬さを、感触を、未だに覚えている。私に何かを伝えようと喋っていたのだが…

ぱくぱくと…
ぱくぱくと…

太鼓の音が一層強まっていく
ダダン、
狐のお面をかぶった5、6人の少女たちが通り過ぎ、一斉に歓声が聞こえ、轟音と共に七色が宙に舞う

ぱぱら。パラ

(そんな金魚
(すぐに死んでしまうべ
(もっと粋の良い金魚
(今度買ってきでやっがら

遠くで、赤が明滅していた

祖母が青ざめた顔で何かを喋っていた
あいにく私には聞こえなかった
金魚が苦しそうに空を仰ぐ
夜空に向かって口をぱくぱくと…
邦恵ちゃぁん
私の手を強く引いて
人の群れを掻き分けて
祖母はどんどん歩いていった
邦恵ちゃぁん、邦恵ちゃぁん
紅い金魚は
水色の袋の中で夜空を仰いでいる
太鼓がダンダンと鳴り止まない。糸のように夜を流れ落ちていく火花。次第に蒼ざめていく空。流れぬ雲。花と散る夢。姉は、まだきっと何処かで踊っている。一心に踊っている。祭囃子が、鳴り止まない。いつまで経っても…。

邦恵ちゃぁん

邦恵ちゃぁん

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