ちょっとだけみかたをかえれば、てきにも、みかたにもなる、とうきょうえき。/ひとなつ
カのごとく走った。
僕をさんざん追い回した挙句、電車はようやく止まった。
ふう、危なかったー
不思議なことに「危なかった」と言える自分がいた。
荒げた息に乳酸の味がした、
いまままでの運動不足が体から抜けていくような、さわやかな味だ。
僕が「明日から寝る前にマンションの階段を上り下りとかして少しは運動しよ」
などと思っていたところに
またあの声がそよ風のごとく舞い込んだ。
「そうさ、その調子!君がみかたをかえれば、
階段は登っていけるし、
ハシラはこうして寄りかかるのに便利だし、
電車はこうして乗ることも出来るのさ。」
カクばったハシラに寄りかかっていた彼は
最後にそれだけ告げて
その快速電車に乗って、
どこかへ行ってしまうのだった。
でも確かに、彼の言うとおりだった
ちょっとだけ見かたを変えれば、敵にも、味方にもなる、この東京駅。
はやく彼に追いつかなければ。
僕は線路を走りどこまでもその電車を追いかけていった。
湘南新宿ライン
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