水の匂い/within
月夜に現れたみずうみに 僕は裸になって
飛び込んだ。別に入水自殺をしようってわけじゃない。これは
ひとつの儀式のようなもので、言うなれば自然との同化、共有
されるファイルを独り占めしないようにするための一対の暗号
と鍵。
ひやりと凍結した水分子が皮膚の間近で融けてゆく。それほど
までに熱いのだ。超臨界流体のように、あらゆるものを腐食し、
僕の思考を分解する。友は子供を連れて去っていった。自ら先
兵となり、煤けた原子と格闘し、透明なジントニックをあおる。
理学部数学科の女子学生は分子生物学講座の講師の男にメール
を送る。友は疲れた身体を子供と眠る妻の横に投げ
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