ラムネ/あ。
 
泡粒の数だけ思い出があり
からからからと音がする


競走はいつでもいちばん最後
ひとあし遅れて着いた小さな菓子屋で
真っ先に選ぶのは瓶入りのラムネ


にじみだす汗を乱暴にぬぐい
はじける炭酸を喉に流し込む
もっと刺激と甘さが欲しくて傾けると
びいだまが無情に出口をふさいでしまう


からからからと音がする


母に着せてもらった濃紺の浴衣には
あわくて儚い桃色の花びらが散る
もじもじとすそをつかみながら
下を向くわたしに差し出してくれたのは
彼のジーンズみたいに青い瓶のラムネ


横を向いたままひとくちだけ喉を鳴らす
びいだまに出口をふさがれ
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