小田急線/岡部淳太郎
水のように流れ
人のように往来した
そのほとりからいくつもの
日常と非情がわき上がり
その沿線はいつもどこか湿っている
鬼門に向かって伸び
裏鬼門へと帰ってゆく
その繰り返しの中から
不吉な何ものかが出来する
余地はあるか
怪しい獣や星の人が跳梁し
列車が空に浮かび上がるような
この世のものでない物語が
静かな生活へと割りこむ
隙間はあるか
川を渡り
隧道を潜り
読めない表情のような
のっぺりとした平野を駈けぬける
今日も人びとは
いやされないロマンスを
個的でおおっぴらに出来ない
秘密を抱えて乗りこむ
そびえる建築と歴史の
間をぬって這い進む
小
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