わたしが無職だったころ/吉田ぐんじょう
 
んで鞄へ入れた
鞄なんてなぜ持っていたのだろう
あのころ大事なものなんて
ひとつもなかったのに

ポッケットに手を突っ込むと
指先に必ずライターが当たった
洗濯したての服を着ていても
どういうわけか入っていたから
ことによると
ライターというものは
輪ゴムや耳かきと同じように
勝手に増殖してゆく類のものなのかもしれない

あれからしばらく経って
新しい鞄を買った時
あの鞄は捨てたのだけど
ファスナーを開けてさかさまにすると
ハンカチと洗濯バサミ
それとグリコのおまけが中から出てきた
全部出しても
掌におさまるくらいの量だった
心のよりどころだったのかもしれない

グリコのおまけは
プラスティック製のちんけな電話で
永遠に鳴らないかたちをしていた


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