夏空に溶けたきみへ/あ。
 

夏に生まれて夏を愛したきみは
遠いところにいったんじゃなくて
風景の何処かに溶け込んでいるって
そんな風に思いたい


輪唱みたいな蝉の鳴き声の中に
赤紫に咲く朝顔の花びらに
汗を浮かび上がらせる陽光のすき間に
ベランダで飛ばした西瓜の種に
青くて深い空と優しい大気に


今はただ隠れているだけだって
いつか会える日が来るって思いたいんだ


スーパーに行った帰り道
銀色の猫がしとやかに歩いていて
野良には珍しく擦り寄ってきた


無類の猫好きだったきみを思い出した
そういえばきみの家の三匹の猫たちは
相変わらず元気にしているみたいだよ



空で迎える最初の誕生日に
きみは変わらずゆったりと
みそひともじを綴っているのでしょうか



八月一日に誕生日を迎えた歌人であり詩友である、故・笹井宏之氏へ


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