かぜごゑ/吉田ぐんじょう
風邪 ふつかめ
おかあさんおかあさん
と呼ぶ声で目をさました
あれ わたしには子供がいたのだっけ
と思って目を開ける
子供は
ちょうど陰になっていて見えない貌で
おなかがすいたよう
とひいひい泣いた
おまえにはなにもしてやれないよ
と言ってはっと気がついた
少し口を開いた子供の口元には
ぞろりと揃った鋭い犬歯が
ぴかぴか光っていて
その奥に拡がる闇ときたら
何かいろいろのものを内包して
天井の四隅と同じ色をしているのだ
ああそうか
わたしはこの子に食われるのか
どんな死に方をするものか
ずっと考え続けてきたんだ
妙に安堵して少しねむった
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