「B-29は頭上を通り過ぎていきました。」〜祖母の記憶/夏嶋 真子
 
「見て、B-29よ。」

一九四五年のある夏の日、
私の頭上にあるのは夢でも希望でもなく
死神の翼でした。

終戦間近、戦火を免れ長閑さの残る片田舎の少女だった私に
戦闘機の名前など区別できるはずもありません。
敵の飛行機すべてをラジオで聞いた、
「B-29」と呼んでいたのです。
死神の恐ろしい呪文をきくような気持ちで。

その日、私はいつものように病院へ向う途中でした。
馬車との接触事故で怪我を負い歩くことができない私を、
十一歳年上の姉がリヤカーに乗せ毎日のように
何キロも離れた病院へ連れて行ってくれたのです。
年の離れた姉は私をそれは可愛がってくれました。

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