鉄鼠の名前/風見鶏
 
【文学的評価】
物語は、母系制が色濃い平安朝中期を舞台にして、天皇の皇子として生まれながら臣籍降下して源氏姓となった光源氏が数多の恋愛遍歴をくりひろげながら人臣最高の栄誉を極め(第1部)、晩年にさしかかって愛情生活の破綻による無常を覚えるさままでを描く(第2部)。さらに老年の光源氏をとりまく子女の恋愛模様や(同じく第2部)、或いは源氏死後の孫たちの恋(第3部)がつづられ、長篇恋愛小説として間然とするところのない首尾を整えている。

文学史では、平安時代に書かれた物語は『源氏物語』の前か後かで「前期物語」と「後期物語」とに分けられた。後続して作られた王朝物語の大半は『源氏物語』の影響を受けてお
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