接吻/殿岡秀秋
 
とをした
自分の唇を切り取ってしまおう
すぐにはできなくとも
大人になったら手術して
新鮮な唇と取り替えようと
ぼくは考えた
しかし取り替える唇はどこにあるのか
いくら考えても解決しない
そして叔父が大嫌いになった

大人になったぼくが
好きな女と接吻して
唇を吸っていると
胸を日影のようによぎる
幼い日の接吻の記憶
たちまち胸が暗くなり
からだが内側から冷えてくる

なおもぼくの舌を吸おうとする女の
唇から離れ

母の背におぶさったように
女に全身をあずける

にじみでる汗
アイスクリームのように
ぼくのからだが溶けて
女の中に滲みこんでいきたい

かすかに揺れる
西瓜の種の乳首に
遠い日の母がよみがえり
ぼくの胸から影をはがすと
ベッドの崖から落としてくれる


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