こんこんちきちん/あ。
く稚児の横顔
長刀鉾は女人禁制でのぼれないから
きみは額に汗を浮かべて一生懸命
女性ものぼれる鉾の場所を聞いてきてくれた
帰りの電車は満員で動けなくて
すくった金魚をつぶさないように必死だった
青色だったはずの浴衣は濡れて濃紺に染まり
きみは窓の外から視線を動かさなかった
電車を降りると家まで歩く
袋の金魚がちゃぷちゃぷ揺れる
それまで無言だったきみは急に笑って
また来年も一緒に行こう、と言った
あれからもう何度目の夏かわからない
スーパーで夕飯の買い物をしていると
女子高生の嬌声が後ろを通り過ぎる
カップルで祇園祭に行くと別れるんやで
その噂有名やんな、ほんまかな
こんこんちきちん、こんちきちん
耳の奥にあの聞き慣れたリズムが響く
ひき肉を手に取り、餃子にしようと呟く
きみの好物、わたしの得意料理
戻る 編 削 Point(16)