傷/回想/千月 話子
 
のように

溢れて赤く濡れた口元を
親指で さっと拭って
気にせずペロッっと舐めて見せた
赤い染料の残る親指には 二本の傷跡
一昨日 進入禁止の有刺鉄線に触れて
ザックリ と切れた傷跡

子供の成長は早く
もうすでに かさぶたを作り始めている

僕は 混乱した
脳が錯覚して
また 傷を開かせてしまったと
泣いて 泣いて 
涙が止まらなくなった・・・・

暫く振りに風が ふっ と吹いて
暖かい感触が頭を撫でたので
僕の罪は 許されてのだろうか・・・と思った

兄さんは笑っていた
親指で涙を拭って見せた そこには
透明な水で洗われた
閉じかけの傷が二本
[次のページ]
戻る   Point(5)