ア、雨/あ。
 
わざわざ好んで痛みを求める必要などない
足場の悪い苦境を選ぶ必要もない
水面に浮かぶ蓮の花みたいに白々と
空っぽの美しさを知ることのほうが重要だ

ぽかんと丸い広がる空の誕生日が
ぼくと一緒だったら嬉しいな
わかる人なんて誰もいないのは知ってるけれど

たか、たか、たか、と
平らだった水面が王冠の形をあちこちに作り始めた

さっきまでさらりと澄んでいたはずの空は
今にも落ちてきそうに重たい雲をぶら下げ
王冠はそこから作られていることに気付いた

作られては消え、消えては作られる
蓮の花びらがふらふら揺れる
髪からしたたる水を少し指ですくい呟く

ア、雨

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