リンゴの涙は紅茶のなみだ/ひとなつ
ひどいわ、誰がやったの?」
リンゴの花びらは涙を浮かべた
清掃婦のわざとらしさにもすがる思いで
涙を滲ませながらも、それを拭きとった脱脂綿には微笑を含ませ
なぞなぞの本をめくるように軽妙に、
自らに問いかけた
私はなぜ、微笑むの?
リンゴは即答した
「騙されるのが大好きだから」
それは胃がムカつくぐらい
あまりにも正解だったので
手首は歌った
♪リンゴの涙は紅茶のなみだ ♪
♪リンゴの涙は紅茶のなみだ ♪
アップルティーというものがあるらしいが
それとはまた違うようだ
リンゴは、まるで自分の運命を知っていたように
アールグレーの紅に染まっていった
白い浴槽、
紅に浮かぶ赤、
「でもね、」
そんな生理みたいな紅色よりも…
「私って、キレイでしょ?」
しかし
そこには、それを言ったはずの「私」を含め、もうだれもいなかった
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