月を放つ/結城 森士
 
ることはない
と言うのに
十年間
母は、姉の部屋を片付けようとしない


4.

真夜中、私の部屋に来客があった

寝返りを打ち
片目を開いて
片手で追い払った

月が落ちてくるのではないか

気がつくと
大きな汗を流しながら
廊下に飛び出していた

姉の部屋には
大きな青いレモンが
転がっている
に違いない


5.

彼女の語るおとぎ話の国では
全てのものは水で出来ていて
透き通って見えるのだそうだ
彼女の黒い髪や薄ら紅い唇が
冷たい感触とともに蘇るので
彼女の描いた水彩画のなかに
私を置き去りにしてください

それっきり
止まってしまった
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