春を呼吸する/あ。
い便箋ばかり
思いを書いた分厚い手紙は
いつでも寂しい片便り
足元に生まれたての緑
まだ瑞々しい色を欲しくなり
欲張りで勝手なわたしは
一枚そっと手に取り
和紙に包んで文庫にはさむ
耳に甲高い声が響く
草に足をとられて転んだ子どもが
大きな声で泣いている
少し後ろを歩いていた母親が起こしてやると
ひざ小僧の砂を払う
小さな手を母親のほっそりとした手が包む
マニキュアも施されていない少し荒れた手を
とても美しく感じる
見上げれば傾きかけた太陽
時間は確実に進んでいる
何よりも美しく 何よりも優しく
当たり前に存在することに幸福を感じる
再び呼吸を意識する
今度は大きく、大きく
胸の中に春を吸い込み
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