春を呼吸する/あ。
 
呼吸は細く、長く
ゆっくりと繰り返す

名前もないような草がざくざくとしげり
時折ぽつぽつと色が見える
それは例えば蓮華草であったり
ぽこぽことしたシロツメクサであったり
小さく眩しい菜の花であったり

いつか此処も掘り返されて
ガレージや住宅地になってしまうのだろう
近辺の同じような土地がそうであったように
だが少なくとも今この瞬間までは
目の前のものが当たり前の風景

幼い頃は果てしないと感じていたものも
大人になると端っこが見えてくる
知らない子どもがそばを走り抜けた
あの子にはきっと全てが無限なのだろう

郵便箱を毎日覗いても
何も書かれていない便
[次のページ]
戻る   Point(4)