朝帰り/百瀬朝子
 

さよならが言えない
またね、だなんて白々しいセリフも
咽喉の奥につっかえたまま
飲み下された

無言の別れに後悔が糸を引く
混ざり合った唾液のように
いやらしく伸びる糸を
あたしは断ち切れない

汽車はあたしを残して走り出す
あたしは別の汽車に乗り込んで
あの汽車を追いかけたい
ああ、
なのに、レールがない!
ああ、そうだった
あたしは自分の足で
歩き出す決意を
しなければならないのだった

心の中でさよならをつぶやいた
あらゆるものを断ち切ろう
去ってゆく
あらゆるものを見送った
ぬかるみに轍が残った
ぬかるみが、轍が、乾いていく
その軌道をなぞってしまわぬように
あたしは背を向けた
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