猫の町/石瀬琳々
 
塗り込められたまぼろし
それとも美人絵の白い指が抱いた黒い猫

   *

ふと見上げればはかったかのごとく
トタン屋根には青猫がいて
知らず知らずに月を探してしまう
夜になってしまう前に (ああいけない)
無理やり緞帳をこじあけて
何げない風を装ってしまおう
決して視線をあわせてはいけないのだ
夕暮れ 知らん顔して通り過ぎてゆくもの

   *

油断してはいけないよ、
たまさか耳元で囁いたのは誰だ
ひげがあったような
しっぽがあったような (シイッ)


御機嫌いかが、と
埃っぽい風が吹く
どの窓にも猫が一匹いて
ぐりぐりした目玉でこちらを見ている
じっと見ている



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