顔/前澤 薫
 
 君の丸顔。
 太い眉。
 きらめく瞳。
 青黒いひげそり跡。
 小さく赤い唇。
 陶磁器のような肌。

 ああなんて。
 その柔らかい輪郭よ。

 脳裏に映し出す。
 ああ。
 零れるような目線。
 憂いある受け口。

 でも侵食できない。
 あまりに遠すぎて、
 あまりに素敵すぎて。

 ああ。
 壊すことができない。

 めくるめく変化を、
 期待しているのに。
 苦悩する顔を
 あえぐ顔を
 性に燃える顔を!

 私は指一本で、
 その肌をなぞることもできない。

 不可能なことよ!

 ああ、その造形に
 酔ってしまう。

 まぶしい白い光線が
 肌を照らしている。

 唇をつける。
 皮膚感覚ではない固いもの。

 とっさにスイッチは切れ
 ぷつぷつと音がする。

 灰色の世界だ。

 私は幻と気づくまで、
 ぽつんと正座し、
 音と形のない世界で
 ただたたずむ。
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