ボトル・ランゲージ/汐見ハル
発音でとなえてみせたら
先生は首をかしげて
もう一回、とわらった
歌のようね、とちいさく
かわいたくちびるの動きは止んで
(…Co giao.Toi la …)
世界はいつも
半分ずつ
かわりばんこに
ぼくから はがれていく
かあさんの書いた買い物メモを
読めないぼくは
自分の名前のほんとうの綴(つづ)りを
書くこともできない
(先生、ぼくは)
ぼくは
ぼくの中にあるコトバそのもの
薄くて透明な よわい磁石
ほどけて くだけて
漂流しつづける
瓶詰の沈黙
学校で覚えてきた
カレーの作り方を教えてあげたのに
何度やっても かあさんは
水っぽいスウプにしてしまうんだ
ぼくの 内側に
ぼくは 築く
船を
自由に 力強く 進む
船を
この透明な檻を壊して
誰かの 内側に
かがやき
胸に抜けない欠片と
なる ために
戻る 編 削 Point(8)