君と80cm/フミタケ
きれいに爪を切った左手の指と
ヤスリで削った右手の長い爪を
ゆっくりと時間をかけて点検する僕は今
君と80cm
60インチのハイビジョン液晶モニターに
僕たちが大好きなホラー映画を映しながら
泡立つ日々が流れ込むマンホールの軋みに
悩まされる近隣の市民
その誰かの苦情に悩まされる役所の職員たち
モヤに霞むはるか北の山影をすかして
高圧縮された病が内部へ潜り込む
やなか珈琲の香りが季節の風とともに流れ込む
地下鉄千駄木駅を滑りのぼって
都市の真昼を切り取った田舎の夜へと避難し
ガットギターのテンションコードの響きだけに神経を集中し
そこからもう一度何かを
ザラついた手触りのこの現実へ持ち帰るという事が
実はそれほど簡単な事であり
有機作用して煙と化した現実はもはや無意識のため息ひとつで
想像する以上に姿を変えていく
世界よ
一服いかが?
でたらめな歴史の果ての泡立つ日々が流れ込むそこは
いつも軋んでいて
海に流れつく頃
夜はあける
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