物の怪くずれ/瀬戸内海
 
俺が恋したあの人は
町の外れに住んでいて
暗い部屋から俺を呼ぶ

「坊や、ちょいと町までおつかいに行ってはくれないかい?」
「悪いけどさ……俺、坊やなんて呼ばれる年じゃねぇぜ」

闇から伸びた手は細く
まるで螺鈿の白のよう
俺は銭を受け取って
おつかい済ませに町まで走る


 最初におつかいを頼まれたときは「自分で行けばいいじゃん」と言った。あの人は「人前に姿を見せることはできないんだよ」と言った。だから、俺は仕方なく町までおつかいに行った。頼まれた物は、蝗、桜の枝、染粉、香木。何に使うのやら……。
 それからというもの、何度もおつかいを頼まれるようになった。何度か「一
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