カンナ/結城 森士
 

…………………………………………「お母さん」。
いつのまにか人差し指は、ガラスの冷たさに触れ、それが夢ではないことを教えてくれていた。夜の街灯は、水に溺れたみたいに涙ぐんでいた。ゆっくりと溶けていくチョコレートのように、また、滑るように消えてゆく自動車のライトや、騒音や、意識の中に、主張を失った儚い陽炎が、震えながら立っている。
部屋の中で、そっと沙織に語りかけてくれた者に
気がつくことはなく
窓際に一輪の枯れた花が、水のない花瓶の中で音もなく腐敗していて
、初めて気がつく

誰にも愛されていなかった
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