羊羹/
 
ふたりで羊羹に入ろう
思い立って三軒目のコンビニで見つけた
消しゴムふたつぶんくらいの小さな羊羹を
にゅるっと皿の上に出す

安物でいいのかと聞くと
羊羹ならば構わないと言い
ゼリーではだめかと聞くと
透明すぎるのだと言う

羊羹は独立していて
コンパクトで
しかも甘い夜の固まりなのだと
彼女は真剣な口ぶりで語り

午前一時の汚いワンルームの
同じ毛布のなかの僕たちの体温の
離れがたさをもってすれば必ず
羊羹に入れるという信念を告白する

それから羊羹はそのままに彼女を押し倒し
一段落するとふたりで羊羹を見つめ
次に抱きよせるともう
羊羹のなかで

きっちり密着した彼女の肌のほか
耳も鼻も目玉の上も
尻の溝まで夜で埋められ
動こうとすると夜ごと揺れた



目が覚めると羊羹は皿の上にあった
彼女は僕の腕のなかで寝がえりをうち
カーテン越しの日ざしに腕を伸ばして
羊羹をつまみ一口で食べた
戻る   Point(8)