Set me free softly/雪間 翔
 
いのにご苦労なこと。 
三越とルイヴィトンはそんなことお構い無し、というふうにかじかむ私を嗤った。 
真冬の昼下がりに、一人で池袋を徘徊する奇人は私だけでいい。 
道行く人は皆駅へ向かって、前を見て、でも何も見ていないし見えていない。 
すれ違ってぶつかって、それでも駅に吸い込まれていく、見えない目で私を誹謗しながら。 
十数メートル高度が上がっただけでこんなに寒い。
パルコは私を快く屋上へ案内した。 
追風も俄然優しく私を導く、全てが完璧。 
「ねえ、あなただったら止めた?」
何も見ていない目で、壊したくなるような優しい目で、私に死ぬなと言った? 
悪いけどもういかなきゃ。 
私にはリアリティだけが親友だから。
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