夏の収穫/水町綜助
 
わけでもない山の斜面から
山村のまばらな屋根が見えて
信州の夏らしい透明な日差しが
一面のあらゆる緑を光らせていた
肌はまだ白く
瞳はまるまると開かれて
赤みの残る髪の毛は
風に晒されるままさらに色を失い
目を凝らせば青色の
小さな燐光を点らせてなびき
また幾本かは持ち上げられた
広がる光景と
生きていることで無自覚に綴られていく
寓話の確かな存在に気付いた驚きと
際限なく広がるかのような地図と
血管を透かす薄い皮膚の
からだの行き先にふるえた

傍らで天道虫と遊ぶ
同い年の友人を呼び
山の向こうを指さす
白くかすんでいる

さした指先は
真っ直ぐにはさされず
いつかどれだけの
圧倒的な誤差を見るのかしらない
見渡して
見たことのない場所で
わすれても
それを感傷的に終わらせることはしない



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