喪カデンツ/靜ト
 
親の声で
「老婆、老婆」
と呻いている。
ここかもしれない。いや、ここではないのだ。
もう一つ半券をちぎる。
噛みつかれるのは当然だ。

密集したザラメの木を抜けて
エキソンとイントロンの割合を憎み
折れかけたヒールは乳歯のようだと思い出す

これが最後だ。

テーブルでは開いた蓮の花が
「老婆、老婆」
と呻いている。
ここだ。ここなのだ。

隣人は握りすぎた手の汗でリアリティを増した。
この声は私だと気付いたが
蚊の羽音がそれを忘却させた。
戻る   Point(2)