彼奴とガリンシャ/松本 卓也
右の脚が3cmも違っていたという
さらには若干の知的障害さえ負っていた
一九六二年ワールドカップで、あのペレを失ったブラジルを
ワールドカップに導いた不世出のドリブラーだ
そんな彼も、一九八三年にビール瓶を抱えたまま野垂れ死んだ
私はガリンシャの生き様こそ詩人であったと思う
彼奴は閉鎖された世界で現実味の希薄な歌を囀っているが
ガリンシャは誰にとっても平面な世界を斜めに傾かせながら
思うがままのフェイントで屈強なディフェンダーをかわしつつ
一度は世界の頂点に立ち、そのままの勢いで転がり落ちた
ガリンシャの死に様に比べれば
彼奴の現状などガリンシャが子供の頃撃ち殺していた
小さなミソサザイにすら及ばない
ちっぽけであるのに真実でさえありえない
もしガリンシャが彼奴をジャングルで見かけたら
靴下を丸めたボールでフリーキックの的にでもするだろう
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