眼鏡/巧
 
美しい花が咲いていた 
絶対に手の届かないところに 
毎日 
毎日 
その花を見つめるだけの日々が続いた 
やがて 
男はその花を見るだけではなく 
自分のものにしたいと思うようになった 
届かないところへ 
毎日 
毎日 
毎日 
手を伸ばした 
でも 
届かなかった 
「あの花が美しく見えなければ・・・ 
 そんな眼鏡があればいいのに・・・」 
そんなことを男は思った 
次の日 
その「美しい花」はなくなっていた 
どこにでもある 
何も感じない 
ただの花になっていた 
そして 
家に帰ると 
やつれた 
孤独な 
皺だらけの老人が 
鏡に映っていた
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