沈んだ心に浮き輪をつけて/百瀬朝子
 
沈んだ心 深い深い海の
底の方から引き揚げて
二度と沈んでしまわぬようにと
浮き輪をつけて海に逃がした

いつから変わってしまった
すっかり影を落として寂しげに漂う姿
何度も何度も見かけていたのに
呼び止めることはしなかった
あの日 海に逃がしてやった瞬間から
僕には呼び止める資格なんてなかったんだ

どうしてあの時 供に海へ出ることを選ばなかったのかと
夜 眠ろうとするたびに後悔する
いつだって後悔は してもしてもしきれなかった
どうしてこんなに苦しいのだろう
僕は今にも海に飛び込んで
逃がした心を捕まえて その浮き輪に穴をあけ
一緒に沈んでしまいたい

離れ離れにならないようにと決意した心中は
今夜も叶わず
僕はシーツの海を泳ぐだけ
漂うように泳ぐだけ
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