秋の夜/吉田ぐんじょう
 
かが手を伸ばしてきている
知らないふりをして走り去る
長い影が靴の裏に貼り付いて
どうも重くてかなわない
季節外れの蛍がいっぴき
ひうっと頬をかすめて消える



コップを空中へ差し出して
しばらく待つと
秋の空気がコップに満たされる
それを飲むとしばし透明になれるのだが
あいにくとよく澄んだ夜の空気でなければ
ためることが出来ない
星が青く光る夜
体に当たる空気がさざ波になって
きらきらするような日があれば
君も試してみるといい

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