駅と本/かんな
住んでいる町は田舎で
電車は一時間に一本あればよいくらいで
待合室があるのが不思議なくらいで
今日は一冊の小説を携えていて
外は雨が降っていたので
回数券を買った
駅の待合室で
携えていた小説を開く
ガラスの向こうのホームに
アイロンがかったシャツの後ろ姿
誰かの面影が通り過ぎるのを待った
ダニエル・キイスの
「アルジャーノンに花束を」
英文で読みきった唯一の本で
今日携えているのは
それだけの理由で
唯一って言葉をはらむほどには重要で
でもそれだけの重さでしかなくて
少なくとも
私の人生が変わったわけじゃない
変わることに意味はあるかと
聴か
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