海になる/緋月 衣瑠香
 
この夏が終わるのもそう遠くはない、と
花火が打ち上げ終わった海にいる私

横たわる一メートルと五十センチあまりの生身
押し寄せる波に三十六度五分の生気は解放される

あれからどれぐらい経つのだろう
少しは青くなれたのだろうか
傷口なく赤い液体が流れ出す
熱をもつそれはまだまだ青くはなれないようだ

夏の思い出が消えてしまうのなら
私は思い出と一緒にこの夏、海に眠ろう

声が聞こえる
深海からのお誘いの言葉
オーバーラップする人魚の歌
重なる神秘は私を内面から青くする


あかが、とけだして、いく


喉元まできた潮水は私の喉へと海の言葉を教え込む

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