『水泳少女、遊泳セヨ!』/川村 透
太もものへびが、青々とした僧侶の頬を、ぢぢぢ、と噛む
ラムネの匂いとレモン水の記憶、少女と僧侶の甘く辛い唇
夜の回遊魚たちは銀色のイルカのように渦を描いて見せる
潮騒になった女は月の塩をなめる水死体のように清らかだ
僧侶の指が、無数の亀になって
少女の胸で、みずち、となって。
蟹のあぶくのひとつぶひとつぶに
映しだされる無数の蛇の子らの声
少女のくらげ色のびろうど透けて
藍色の僧侶は
女の夜の腕を花束のように抱いた。
美しく重く、
泳ぎ疲れた僧侶と少女は
波打ち際に横たわる
少女は目を、閉じたまま
僧侶は魚のように上下する少女の胸の
美しく重く、
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