牛の気持ち/アンテ
 
立つのか判らないごく限られた牛に関する知識を
毎日まいにちノートに小さな字で書きつづっていて
うっかり飼い猫(カウベルなどという名前がついている)のご飯を三度も忘れて
手にひっかき傷が絶えないのだろう
そうして
十年くらいに一度
とても深刻なノックがドアを震わせて
莫迦げているけれどとても複雑である特定の局面において非常に重大かつ深刻な
牛に関するトラブルを抱えた人が
世界じゅうをたらい回しにされたあげくに訊ねてくると
中に招き入れて
牛の気持ちおよびその関連事項について
懇切丁寧に解き明かしてくれるのだろう
ぼくは客観的に判断して
そうとう追いつめられているはずだ
そろそろ牛博士に巡り逢えてもいい頃なのに
ぼくは相変わらず
言葉を失ったまま立ちつくしている
あるいは牛博士なんて空想の産物で
世界じゅうどこを探しても存在しないのかもしれない
そんなぼくを睨み付けて
彼女はまた大げさなため息をついて
両手を腰に当てて
もぅ
と吐き捨てた



戻る   Point(4)