ムルチ(怪獣詩集:帰ってきたウルトラマン)/角田寿星
 
印がとけて
すべてのかなしみとにくしみと怒りをこめて目覚め立ち上がる青き怪獣
ムルチですか
それとも

「勝手なことを言うな…怪獣をおびき寄せたのはあんたたちだ…」
「郷!街が大変なことになってるんだぞ…わからんのか?!」

そう
愛らしき人類の平和を守るべくはるかM78星雲よりやって来た
正義の巨人
ウルトラマンですか

燃えさかる炎はすさまじい豪雨をよび対峙するウルトラマンとムルチを洗い流す
ムルチのブルー
ウルトラマンの銀
ムルチの流した涙
ウルトラマンの流した涙
ムルチの頚部から噴出したみえない鮮血の飛沫
豪雨は
洗い流し
そして三十年がたちました
誰ともなくつぶやいて

少年は父親になり
道のまんなかに立って
うつむいて
みえない雨に打たれるように
両肩から湧きあがる自問の声をこらえている

ボクハ ダレデスカ

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