(また)見えない人の話/吉田ぐんじょう
の思い出が幾つがあるのだが
泣くわたしをおろおろしながら背負ってくれたり
手のひらから動物ヨーチを出して食べさせてくれたりした
顔を思い出そうとしても
いつも逆光で黒く塗りつぶされたようになっていて
わからないのだが
思い出すといつも泣きそうになる
夕暮れと毛羽立った灰色のセーター
夏でもつめたかった背中であった
小学校のときには
いつも家まで迎えに来て
学校まで手を引いて行ってくれる女の子がいた
わたしは生来ぼんやりとした子供で
脇道や路傍に何かの死骸や木の実が見えると
それを触ろうとして道を逸れる性質を持っていたのだが
その子はそれを正そうとするかのように
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