お米をこぼした日/千月 話子
しかった米達よ
台所に愕然としゃがみ込んだ
私の唇の絶望に似た切なさを
今は誰かに知ってほしい
跪いた膝関節から止め処なく
「おばかさんね おばかさんね」
と 煽り立てるので
心は 心は 玄関を飛び出して
公園のブランコを探して
ただひたすら 風に揺れる
空になった私の身体の非常事態に
どこにあるのかスイッチが入る
「心が無いなら米を詰めろ」
と鳴り響くので
さんざ散らばった埃付きの米を
やはり無心で拾い集めた
世界中のどこかで
誰かが米をこぼした日
台所には 小さな灯がともり
誰にも気付かれずに
1人 頑張っている人が居る
汚れた米をきれいに洗って 洗い過ぎて
栄養分が少し減ってしまっても
「おいしい」と 言ってほしい
家出した心を迎えに行って
「帰ろうよ」と微笑みかけて
2人して自分を誉めてあげたい
お米をこぼした日
切なくて 切なくて
少し誇らしいを知った 日
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