あんぱんを齧る宵/一番絞り
 
60ワットの月の宵です。
机の上を片付けて、
木目の表面をきれいに拭きましょう。
二万分の一くらいの地図模様が浮かび上がります。
そうですね。
机の先の断崖は、阿武川渓谷ということにしましょう。
真ん中をまっすぐ縦貫して
やまぐち鉄道キハ48系山陰色を走らせてみます。
するとほら
鉄路が海と山をわけてゆくでしょう。
列車はおのずと蛇行するのです。
北東にのけられた砂はさざなみ状の波紋を広げて海岸線を開き、
南西に積み上げられた等高線は丘を重ねてゆきます。
どこかに駅がほしいな。
駅の名は東長門峡駅でいいでしょう。
駅舎もプラットホームもない
標識だけの無人駅です。
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