森のバイオリン弾き/
 
静かな森の夜
美しい花々の庭を通り
白い砂利道を歩いてゆきますと
古びた像の前へさしかかり
ひとすじの風が
私の耳に何かを運んできたのです

はっきりとした意識はありませんが
ぼんやりと見ているだけでも
その様子は目に浮かぶようでした
眠れない夜
遊びに行きたくても
遊びに行けないあなたは
やわらかな夜の中で
あなただけの空気を作り出していたのです

それは素晴らしい歌でした
夜の中へと放たれてゆく小船のような
穏やかでゆらゆらと揺らめく
優しいゆりかごのような
何度も辿るその緩やかな
メロディラインの心地良さを
あなたにも教えてあげたくて
私はそっと
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