サラマンダー/しろう
もはや不味くなるばかりの煙を吐きながらその渦に、下手な嘘をマジな顔で吹き込んでみるたびに君と少しずつ時計の針の振り幅がずれてゆく。
僕はそんな秒針を飽きることなく眺めている。
「あれはいつの日のことか」などとつぶやく程に遠くはなく日付を数えられるほど近くはないのが、無垢なる幸福というものだろう。
赤く尖った秒針が細かく刻んでゆくものは、過ちか、あるいは哀しみが色褪せていくことの哀しみなのかもしれない。
赤いバラを植えた地表の裏側にマグマのように溜め込まれた粘度の高い怒りが、心を焼き尽くしてしまいそうになるから僕は無気力を装うふりをしなければならなくなるたびに、無力にほんの少しずつ近づく。
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