ホタル/chick
 
てこないのだから。意味がない。今から何かを変えることに、何の意味もない。
 それに人が落ちたこの部屋は、私以外の誰が暮らせるだろうか。きっと、誰も暮らせない。あなたに一番近い場所で、私は一人で暮らし続ける。
 そして私はつくづく思った。煙草もそんなに嫌いではないと。いや、あなたの吸う煙草までも愛していたことを。
 けれどまた、私は煙草が嫌いになった。
 人を愛していたことなんて誰にもはかりきれなくて、それがどんな影響を及ぼしたかなんて他人にはまったく興味のないことで。それでも、過去に縋ってしまうのは弱さの所為か、愛が大きすぎたのか。
 だからといって、私はあなたの後ろ姿を毎日見続けたことを後悔していない。
 あなたを好きになったことを後悔していない。


 あれから一年が経って、また同じ夏が来た
 それでもこの部屋のベランダからホタルが飛ぶことはない
 ああ、あなたがベランダで飛ばすホタルがどうしようもなく愛おしい
 わがままを言うのならばもう一度、あのホタルに逢いたいと思った



(二〇〇六年一月)
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